ダイス伸線加工 技術データ

ダイス伸線加工とは

ダイス伸線加工とは、線材をダイスによって引き抜く加工のことを指し、ダイスを用いて引き抜く際に線材の直径を必要な外径まで細くし、線材の長さを伸ばす塑性加工のことです。線材を引き抜きながら加工を行うので、「線引き加工」とも呼ばれます。線材には大きな張力が加わるため、破断させないよう、一回のダイス通過で可能なダイス減面率をダイス穴径でコントロールする必要があります。そのため、細い線を得るためには、複数回、線をダイス通過させる必要があります。
線材がダイスを通過するときの減面率は、一般的に8% ~ 20% とされており、最終の仕上げダイス径(仕上げ線径)から逆算してダイススケジュールを決定します。

< ダイス伸線加工図 >

ダイス伸線加工を成功させるために、必要な要素は大きく3 つに大別されます。一つ目は「連続伸線機」、二つ目に「伸線ダイス」、三つ目に「潤滑剤」となります。

ダイス伸線加工図

連続伸線機 (例:L17 型スリップ伸線機)

ダイス伸線加工を行う伸線機を連続伸線機と呼び、「スリップ式」と「ノンスリップ式」に大別されます。ダイスを通過した線の体積は一定ながら、長さが異なるため、キャプスタンと呼ばれる軸に巻き付けながら、線速をコントロールする必要があります。「スリップ式」の伸線機においてはキャプスタン上の線をスリップさせることで達成し、「ノンスリップ式」においては複数あるキャプスタンの周速度を制御することで達成します(線速とキャプスタン周速度を同期させる)。銅線の細線加工においては主に「スリップ式」が用いられています。

連続伸線機 (例:L17 型スリップ伸線機)

伸線ダイス

ダイスは入口が太く、中間部で最も狭くなり、出口も緩やかに広がる形状をしています。中間部のもっとも力がかかる細い箇所にダイヤモンドをはめ込み、線の外形を決定します。ダイヤモンドには自然ダイヤ、人造ダイヤ(単結晶、多結晶)などの種類があり、必要とされる線の太さや仕上りの表面状態に応じて選択します。ダイス穴部の精度が伸線の加工精度を左右するため、伸線ダイスはダイス伸線加工の要と言えます。

伸線ダイス

潤滑剤

銅線の連続伸線機用として、主に水溶性の潤滑剤が使用されています。鉱油、油脂などの油性剤と水を界面活性剤によって乳化させ、潤滑性、冷却性、洗浄性などの性能をバランスよく発揮できる潤滑剤が良好とされます。ダイス伸線加工を理想的に行なうとともに、次工程(メッキなど)においても最適な潤滑剤を選択する必要があります。

潤滑剤

焼鈍加工

ダイスを通じて線材を伸線加工すると、金属の結晶構造が崩れ硬くなります。これを銅線の場合は硬銅線と呼びますが、このままでは硬く、次の加工工程の要求品質を満たさないため、焼き鈍し処理を行います(焼鈍加工)。この焼鈍加工によって銅を再結晶化させ、軟化させることができます。銅の再結晶温度は200 ~ 230℃であり、一定時間の加熱、冷却を経ることで、所定の性質を得ることができます。

焼鈍加工

メッキの方法と特徴

伸線加工を行った線材に機能性を付加したり、防錆・防食を目的としてメッキ加工を施します。導体にメッキ加工を行うことによって導電率や電気抵抗値を変更したり、表面硬化、半田付け性を変化させることができます。

電気メッキ

電気メッキは、電流を流すことで金属イオンを被メッキ物(銅線やアルミ線など)に固着させ、金属の被膜を生成させるメッキ方法です。金属が溶けているメッキ液の中へ陰極(マイナス)として被メッキ物(銅線やアルミ線)を浸し、反対の陽極(プラス)には電極としてメッキと同一の金属を浸し、両極間に電流を流します。これにより、メッキ液の中に溶け込んでいる金属イオンが陰極側である被メッキ物へ移動します。被メッキ物の表面で電子交換が起こり、溶け込んだ金属が元の金属に還元、析出することでメッキ層を形成します。
電気メッキはメッキ厚の制御を高精度に行えるというメリットがありますが、被メッキ物である導線の線速に制限が出るので生産性は高くありません。また、合金層を作ることが難しいために密着強度に限界があります。

電気メッキ

溶融メッキ

溶融メッキは溶かしたメッキ材に被メッキ物(銅線など)を浸し、表面にメッキを被膜させる方法です。合金層を作ることができるので、密着強度は高く、また、線速を早くしてもメッキ処理を行うことができるので生産性が高くなります。
電気メッキの場合にはひげ状の細長い単結晶であるホイスカ(ウイスカ)が発生しやすい傾向にありますが、溶融メッキではホイスカが発生しにくいとされています。溶融メッキは汚染排水や薬品の使用がないため、環境にやさしいメッキ方法であるとされています。

溶融メッキ

導体の種類

電線やジャンパー線に使用される導体には複数の種類があり、その使用用途に合わせて選択されています。電気導電率や耐熱性、重量など、設置環境を加味した上での導体選定が必要となります。

導体の材質として一般的に使用されているものは銅です。銅の純度は 99.9% 以上のものが一般的に用いられています。銅は電気導電率(導電率)と熱伝導率が高く、展延性や可塑性に優れているからです。また、銅は適度に強度を持っており、伸線後のメッキ加工が行いやすいという利点もあります。ゴム絶縁電線に使用される場合には硫化防止のため錫メッキを行います。 焼鈍を行った導体は軟銅線として一般配線や電気機器に使用されます。焼鈍を行うことで導電率は 3% ほど上がりますが、機械的強度が少し落ちてしまいます。そのため、機械的な強度が必要となる送電線には硬銅線が使用される場合もあります。

銅

アルミニウム

アルミニウムは銅に比べて低密度のため比重も軽く、アルミニウムの重量は銅の約 3 分の 1 となります。電力用途のケーブルには銅導体が採用されることが多いですが、アルミニウムは重量が軽くなるので長距離を架空布設するような送電線、配電線に使用されます。ただし、強度が落ちてしまうので、アルミニウムの撚り線とし、中心には鉄線を入れている場合がほとんどです。導電率は銅に比べて 60% と低く、空気中では保護力の強い酸化被膜が形成されるという特徴があります。

アルミニウム

軟鋼

軟鋼を線にしたものを軟鋼線と呼びますが、これは JIS G 3505 にて規格されています。炭素量が 0.08% 以下であるSWRM 6 から、最大 0.25% の炭素量である SWRM 22 まで 8 種類(低い炭素量となる SWRM 2 と SWRM 4 を含めると計10 種類)の軟鋼線材の規定があります。 導体として使用される場合、この軟鋼線を芯材として銅メッキを施した線材を CP 線となります。導電率は落ちますが曲げに対するコシが強く、電子部品用のリード線として使用される場合があります。

軟鋼

ニッケル

ニッケルは非常に高い耐酸化性と耐薬品腐食性、耐熱性を持っており、経年変化が小さく、機械的特性も優れています。そのため、耐熱電線の導体として使用され、高い耐熱性や耐食性が求められる電熱器や高温機器などの加熱製品、電気製品に使用されます。

ニッケル